悪夢






汚水、尿、便、カビ、土。
それぞれの匂いの異臭とそれぞれの絡み合った異臭が漂う。
その匂いに顔をしかめる。
しかし寝起きのいくらかボケていた頭には丁度良い目覚ましになった。
床には水とも尿ともつかぬ液体が乾ききらずに、所々水たまりを作っている。
その水たまりを避けながら手前の洗面台に向かう。
蛇口をひねろうとした。だが固い。
二度目に強くひねると、今度は開いた。
さらにひねるが、水量は変わらずちょろちょろとしか出てこない。
別の台に変えるのもおっくうだった。
流れてくる少量の水が手の平に溜まるのを待つ。
「サスケ!包帯これだけで足りんのか?」
幾分か溜まった水を顔に軽くかける。
徐々に頭が覚めてくる。
「おい、無視してんじゃねーぞコラ!」
次は浸すように顔全体にかける。
意識していなかった汗、脂を指に感じた。
「ちょっと、キミ、男子便所の前で何してんの?」
「うるせえ、テメーには関係ねえ!入るんならさっさと入りやがれ!」
「オイオイ…」
「サスケ! 聞いてやってんだろーが、さっさと応えろ!」
足りる。
それだけ言うのも、いや、言ってやるのもイライラする気がした。
黙って戻れ。
そう口から出そうなのを抑えて、したたる水滴もぬぐわず無言で便所から出ようとした。
が、便所の出入り口が二人に丁度ふさがれている形となっている。
…何でそんな邪魔なところに立ってんだ?
どけ、と言おうとする前に水月が香燐の後ろに体を引いた。
先ほどまで口やかましかった香燐も途端に黙った。
二人の様子には構わずに、そのまま外に出る。
外は夜明け前でまだ薄暗い。
整備されてからかなり経っているだろう道だが、ぽつぽつと電柱が道沿いに並んでいる。
その電柱に背をあずけて、少し黒が薄くなった空をぼんやり見渡した。
顔を撫でる風が、まだしたたっている水のおかげでいつもより気持ち良い。
その気持ち良さとは打って変わって、心の中は嫌悪感でいっぱいだった。
嫌な夢だった。
思い出すのも嫌な夢だ。
だが、こう何回も同じような夢を見れば思い出さずにおられない。
その度に夢に嫌悪し、何よりそんな夢を見る自分に嫌悪する。
自分の決心は固い。
この決心が揺らぐ事は有り得ない。
事実、対峙した時も自分でも驚くほど冷静に、冷酷に事を成せた。
しかしそれも当たり前の事だ。当たり前のはずだ。
なのに何故、夢それだけがこの事実を打ち消すような真似をするのか。
「夢だ」
つぶやいてみる。
声に出す事で、この事実が完全に夢に勝るものになる気がしたから。
「しょせん、夢だ」
そうだ。
しょせん夢だ。
夢が、深層心理だと?
それがどうした。
オレはオレの成すべき事をやるだけだ。
夢など関係ない。


もうしばらくすれば、きっとこんな夢など見なくなる。













「悪夢」とは勿論、7班の夢です。

漫画にしたかったのですけれど、いざ小説で書いてみたら
まあこれはこれでええんじゃないのか
と思ったので小説で。